「子どもと本」谷川俊太郎



子どもよ
物語の細道をひとりでたどるがいい
画かれた山々を目で登りつめ
洞穴の奥の竜の叫びに耳をすますがいい

子どもよ
本の騎士と戦いの本の王女に恋するがいい
煮えたぎる比喩の大鍋の中の
昨日にひそむ今日をむさぼり食うがいい

子どもよ
意味の森で迷子になるがいい
修辞の花々に飾られた小屋に逃げ込み
魔女に姿を変えた母親に出会うがいい

そして子どもよ
なんどでも本を破り捨てるがいい
言葉の宇宙を言葉のたてまで旅して
ふたたび風船ガムをふくらますがいい