「夜のミッキーマウス」谷川俊太郎



夜のミッキー・マウスは

昼間より難解だ

むしろおずおずとトーストをかじり

地下の水路を散策する


けれどいつの日か

彼もこの世の見せる

陽気なほほえみから逃れて

真実の鼠に戻るだろう


それが苦しいことか

喜ばしいことか

知るすべはない

彼はしぶしぶ出発する


理想のエダムチーズの幻影に惑わされ

四丁目から南大通りへ

やがてはホーチーミン市の路地へと

子孫をふりまきながら歩いて行き


ついには不死のイメージを獲得する

その原型はすでに

古今東西の猫の網膜に

3Dで圧縮記録されていたのだが