「老いたるえびのうた」室生犀星



けふはえびのように悲しい
角やらひげやら
とげやらいっぱい生やしてゐるが
どれが悲しがつてゐるのか判らない。

ひげにたづねて見れば
おれではないといふ。
尖つたとげに聞いてみたら
わしでもないといふ。
それでは一体誰が悲しがつてゐるのか
誰に聞いてみても
さっぱり判らない。

生きてたたみを這うてゐるえせえび一疋
からだじうが悲しいのだ。