「劣等生」 ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
あたまは「いやだ」と横にふり
心のなかで「いいよ」という
愛するものに「いいよ」といい
教授先生には「いやだ」という
起立して
質問されて
問題がすっかり出そろうと
いきなりげらげら笑いだし
何もかも消す 何もかも
数字も ことばも
年月日も 名前も
文章も 罠も
先生はとびきり渋い顔
優等生は囃(はや)したてるけれど
いろんな色のチョークをとって
ふしあわせの黒板に
しあわせの貌(かたち)をえがく。
「花屋で」ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
一人の男が花屋に入り
花をえらぶ
花屋のおばさんは花を包む
男はポケットに手をつっこんで
金を探す
花の代金を
だがそれと同時に
とつぜん
男は胸に手をあてて
倒れる
倒れると同時に
金は地面をころがる
そして花束は落ちる
男が倒れるのと同時に
金がころがるのと同時に
花屋のおばさんは突っ立ったままだ
金はころがり
花は駄目になり
男は死ぬ
もちろんこれはたいそう悲しいことだ
なんとかしなければいけない
花屋のおばさんは
けれどもどこから手をつけたらいいのかわからない
どこが糸口なのか
さっぱりわからない
しなければいけないことは多すぎるのだ
この死んでゆく男
この駄目になった花
この金
ころがる金
ころがりつづける金。
「朝の食事」ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
茶碗に
コーヒーをついだ
茶碗のコーヒーに
ミルクをいれた
ミルク・コーヒーに
砂糖をいれた
小さなスプンで
かきまわした
ミルク・コーヒーを飲んだ
それから茶碗をおいた
私にはなんにも言わなかった
タバコに
火をつけた
けむりで
環をつくった
灰皿に
灰をおとした
私にはなんにも言わなかった
私の方を見なかった
立ちあがった
帽子をあたまに
かぶった
雨ふりだったから
レインコートを
身につけた
それから雨のなかを
出かけていった
なんにも言わなかった
私の方を見なかった
それから私は
私はあたまをかかえた
それから泣いた。
「家族の唄」ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
おふくろが編物をする
息子が戦争をする
これは当然のこと とおふくろは思う
それならおやじ おやじは何をする
おやじは事業をする
家内は編物
息子は戦争
わしは事業
これは当然のこと とおやじは思う
それなら息子 それなら息子は
どう思う 息子は
息子はなんとも思わない 何とも
おふくろは編物 親父は事業 ぼくは戦争
戦争が終ったら
おやじと二人で事業をするだろう
戦争がつづく おふくろがつづく 編物をする
おやじがつづく 事業をする
息子が戦死する 息子はつづかない
おやじとおふくろが墓参りをする
これは当然のこと とおやじとおふくろは思う
生活がつづく 編物と戦争と事業の生活
事業と事業と事業の生活
生活とお墓が。
「鳥の肖像を描くには - 原文」ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
「 Pour faire le portrait d'un oiseau 」
Peindre d'abord une cage
avec une porte ouverte
peindre ensuite
quelque chose de joli
quelque chose de simple
quelque chose de beau
quelque chose d'utile
pour l'oiseau
placer ensuite la toile contre un arbre
dans un jardin
dans un bois
ou dans une forêt
se cacher derrière l'arbre
sans rien dire
sans bouger...
Parfois l'oiseau arrive vite
mais il peut aussi bien mettre de longues années
avant de se décider
Ne pas se décourager
attendre
attendre s'il faut pendant des années
la vitesse ou la lenteur de l'arrivée de l'oiseau
n'ayant aucun rapport
avec la réussite du tableau
Quand l'oiseau arrive
s'il arrive
observer le plus profond silence
attendre que l'oiseau entre dans la cage
et quand il est entré
fermer doucement la porte avec le pinceau
puis
effacer un à un tous les barreaux
en ayant soin de ne toucher aucune des plumes de l'oiseau
Faire ensuite le portrait de l'arbre
en choisissant la plus belle de ses branches
pour l'oiseau
peindre aussi le vert feuillage et la fraîcheur du vent
la poussière du soleil
et le bruit des bêtes de l'herbe dans la chaleur de l'été
et puis attendre que l'oiseau se décide à chanter
Si l'oiseau ne chante pas
c'est mauvais signe
signe que le tableau est mauvais
mais s'il chante c'est bon signe
signe que vous pouvez signer
Alors vous arrachez tout doucement
une des plumes de l'oiseau
et vous écrivez votre nom dans un coin du tableau.
「くじら釣り」ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
くじらを釣りに、くじらを釣りに、
けわしい声で 親父が言った、
箪笥の前にねそべった息子のプロスペルに、
くじらを釣りに、くじらを釣りに、
お前、行きたくないのかい、
どうしてさ、
どうして けものを 釣りに行くのさ、
ぼくにわるさをしないけものを、
パパ行きなさい、パパひとりで行きなさい、
ぼく 家にいる かわいそうな母さんと、
いとこの ガストンと。
するとおやじはくじら舟で ひとりぼっちで出かけて行った、
荒れくるう海の上・・・
ほら 今 おやじは海の上、
ほら 今 息子は家のなか、
ほら 今 くじらが怒りだした、
ほら 今 ガストン お皿をひっくり返した、
お皿のなかのスープをこぼした。
海は大荒れ
スープはすてき、
プロスペル 椅子にこしかけ くよくよと、
くじらを釣りに、ぼく行かなかった、
どうして 釣りに 行かなかったのさ
ほんとにくじらをつかまえたら、
ぼくはくじらを食べちゃうのに、
するとそのとき、扉があいて、全身ずぶぬれ、
息を切らしたおやじの姿、
ひっかついでたくじらを
テーブルに投げ出した、きれいなくじら、青い目の、
ほんとにきれいなけだもので、
みじめな声で おやじが言った、
はやくはやく、切っとくれ、
腹へった、喉かわいた、食べたいよ。
そこでプロスペル立ち上がり、
おやじの 青い色の目を、
しろめをむいてにらみつけ、
どうして ぼくはわるさをしない かわいそうな けものを切るのさ。
ぼくはいやだよ、やめたっと、
そして ナイフを 床に投げ捨てると、
くじらはそれをひっつかみ、おやじ目がけてとびかかり、
おやじのからだにずぶりと突き刺す。
ああら、ああら、とガストンがいう、
まるでちょうちょ、ちょうちょの標本みたい、
こうして
プロスペルは死亡通知を出し、
母親はあわれな夫を悼んで喪服を着る、
くじらは涙をいっぱいうかべ、悲歎にくれた一家をながめ、
いきなり叫ぶ、
どうしてぼくは殺したんだ、こんなかわいそうな男、
今度はほかの人間が、発動機船でぼくを追っかけ、
ぼくの一家はみなごろしだ、
それから、ぞっとする声で わらって、
くじらは 出て行きしなに
未亡人に、
奥さん、だれかが ぼくを 殺しにきたら、
お願いです こう言って下さい、
くじらは出て行きましたよ、
おすわりなさい、
お待ちなさい、
あと十五年、そしたらきっと帰ってきます・・・
「鳥の肖像を描くには」ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
まず鳥籠を描くこと
扉は開けたままで
つぎに書く
鳥にとって
なにかここちよいもの
なにかさっぱりしたもの
なにか美しいもの
なにか役立つものを...
つぎにカンバスを木にもたせかける
庭のなかの
林のなかの
あるいは森のなかの.
木のうしろに隠れる
一言もしゃべらないで
動かずに...
ときには鳥はすぐ来る
だが長年かかることもある
その気になるまでに.
がっかりしないこと
待つこと
必要なら何年でも待つ.
鳥の来るのが早いかおそいかは
何の関係もないのだから
絵の出来ばえには.
鳥が来たら
来たらのはなしだが
完璧に沈黙を守ること
鳥が鳥籠に入るのを待つこと
鳥が入ったら
そっと筆で扉を閉める
そして
柵を一本一本すべて消す
鳥の羽に決して触れないように気をつけて.
つぎに木の肖像を描く
鳥のために
いちばん美しい枝をえらんで.
みどりの葉むれや風のさわやかさも描く
日ざしのほこりも
夏の暑さのなかの虫たちの声も.
それから待つこと 鳥がうたう気になるのを.
もし鳥がうたわないなら
それは良くないサイン(しるし)
絵が良くないというサイン
しかしもしうたったらそれは良いサイン
きみがサインしてよいというサイン
そこできみはそっと抜く
鳥の羽を一本.
そして絵の隅に君の名を書く。
登録:
コメント (Atom)