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「昨日いらつして下さい」 室生犀星


きのふ いらつしてください。

きのふの今ごろいらつしつてください。

そして昨日の顔にお逢ひください、

わたくしは何時も昨日のなかにゐますから。

きのふのいまごろなら、

あなたは何でもお出来になつた筈です。

けれども行停りになつたけふも

あすも、あさつても

あなたにはもう何も用意してはございません。

どうぞ きのふに逆戻りしてください。

きのういらしつてください。

昨日へのみちはご存じの筈です、

昨日のなかでどうどう廻りなさいませ。

その突き当たりに立つてゐらつしやい。

突き当たりが開くまで立つてゐてください。

威張れるものなら威張つて立つてください。




「老いたるえびのうた」室生犀星



けふはえびのように悲しい
角やらひげやら
とげやらいっぱい生やしてゐるが
どれが悲しがつてゐるのか判らない。

ひげにたづねて見れば
おれではないといふ。
尖つたとげに聞いてみたら
わしでもないといふ。
それでは一体誰が悲しがつてゐるのか
誰に聞いてみても
さっぱり判らない。

生きてたたみを這うてゐるえせえび一疋
からだじうが悲しいのだ。