「ラーメンたべたい」矢野顕子

ラーメンたべたい
ひとりでたべたい
熱いのたべたい


ラーメンたべたい
うまいのたべたい
今すぐたべたい


チャーシューはいらない
なるともいらない
ぜいたくいわない
いわない けど けど…


ねぎはいれてね
にんにくもいれて
山盛りいれて


男もつらいけど 女もつらいのよ
友達になれたらいいのに
くたびれる毎日 話がしたいから
思いきり大きな字の手紙 読んでね


となりにすわる
恋人達には
目もくれずたべる


わたしはわたしの
ラーメンたべる
責任もってたべる


今度くるときゃ
みんなでくるわ
ばあちゃんもつれてくる
けど けど けど…


今はひとりで
ひとりでたべたい
ラーメンたべたい


男もつらいけど 女もつらいのよ
友達になれたらいいのに


あきらめたくないの 泣きたくなるけれど
わたしのこと どうぞ思いだしてね


ラーメンたべたい
ひとりでたべたい
熱いのたべたい


ラーメンたべたい
うまいのたべたい
今すぐたべたい
たべたい


(ラーメンたべたい ひとりでたべたい 熱いのたべたい)
(ラーメンたべたい ひとりでたべたい 熱いのたべたい)


ラーメンたべたい
ひとりでたべたい


ラーメンたべたい
うまいのたべたい

「闇」小沢健二

2003年、夏の日の夕方。
ニューヨークで大停電が起こる。

エレベーターに閉じ込められた人たちが助け出される。地下鉄が止まる。道路では信号が消えてしまって、車が立ち往生している。家に帰れなくなった人たちが街中に溢れる。みんなが一斉に電話を掛けるから、携帯電話のネットワークが落ちてしまった。

パニックが起こるか、と思ったら、そんなことはなかった。街の人たちは、路上で休んでいる人たちをアパートに向い入れる。みんなが自分と感じが合いそうな人がいないか探り合っている。困っている人がいないか、注意している。みんなが頑張ろうとしていた。

いつも小銭をねだってくるホームレスのオッサンが大活躍している。「あのビルの間は休みやすいよ。水が飲めるし、ビルが自家発電だし」とか、ホームレスのオッサンは近所の事情にやたら詳しい。

テレビ局は大電力が必要なので機能しなくなってしまった。けれど、ラジオは放送を続けた。小さなラジオ局がホームレスのオッサンのように活躍していた。停電はニューヨークだけではなく、アメリカ北部とカナダまでを覆っているらしかった。そして、復旧の見込みは今夜一晩なかった。

暑い夏の夜が始まる。

生鮮食品を売る店は、どうせ腐ってしまうのだからと肉や野菜をタダで配り始めた。どこの家でもロウソクの明かりの下で、大勢のための料理が始まった。電池で動くラジオやCDプレーヤーから、音楽が流れ続ける。

暗闇の中で、音楽は甘く、いつもよりくっきりと聴こえる。歌の歌詞は、雪の上の動物の足跡のようにはっきりと見える。言葉だけでなくて、音楽がはっきりと聴こえる。演奏している人、歌詞を書いた人の気持ちがドッキリするくらい近くに感じられる。そして、同じ暗闇の中に、同じ音楽を聴いている同じ気持ちの人がいることを感じる。

昔の人は、門構えに音と書いて闇を表した。

人が住んでいない砂漠にあるような闇が、大都会の上を覆う。その闇の中で音が響き、街中の路上でパーティーが始まった。いつも同じ感じで進んでいく世の中の中で、ある全然違う世の中が見える。一瞬だけ、ぜんぜん違う僕らのあり方が見える。明日は電気が復旧して、また元の生活が帰ってくる。

けれど、今夜だけは、僕らは、ぜんぜん違う世界で時を過ごす。そして元の生活に戻っても、世の中の裂け目で一瞬だけ見たもの、聴いたものは消えない。真っ暗闇の中で音楽を聴いていた日のことは、絶対に忘れない。

その記憶は、消えることが無い。