「こちら側と向こう側」川崎洋

柵っていったい何ですか
柵のこちら側と向こう側だなんて
ああ可笑しい
棒杭の一本一本に
どんな意味があるんですか
並べて土に打ち込めばいいと思ってる
そうすりや
つながったような感じがするんですか
どうかしてやしませんか
何かのおまじないですか
柵って何ですか
柵のこちら側と向こう側だなんて
元来すうっと歩いていけばそれでいいのに
どうってこともないのに
柵だなんて
そればかりじゃない
柵のこちら側では喜びが
向こう側では悲しみだなんて
すうっと歩いていけば
ただそれだけの話だったのに
柵があって
向こう側へ行けば殺されてしまう
なんて
柵ってなんですか
こちら側から向こう側へ行けないなんて
そこの所でこちら側へ廻れ右
向こう側も
こちらを向いて歩いてきて
そこの所で
くるりと向こうを向く
しょうがないなあなんていいながら
柵ってなんですか
草や木が生えているのっぺらの大地に
そいつがあって それで
こっち側と向こう側
だなんて
棒杭が並んでいて
それに針金が絡まっていて
同じ位無造作に
死体が絡まっていて
向こう側とこっち側
向こうで
出ていけ

こっちでは
やあいらっしゃい
だなんて
柵っていったい何ですか
柵のこちら側と向こう側だなんて


「落ちこぼれ」 茨木のり子

落ちこぼれ

和菓子の名につけたいようなやさしさ


落ちこぼれ

今は自嘲や出来そこないの謂


落ちこぼれないための

ばかばかしくも切ない修業


落ちこぼれこそ

魅力も風合いも薫るのに


落ちこぼれの実

いっぱい包容できるのが豊かな大地


それならお前が落ちこぼれろ

はい 女としてとっくに落ちこぼれ


落ちこぼれずに旨げに成って

むざむざ食われてなるものか


落ちこぼれ

結果ではなく


落ちこぼれ

華々しい意思であれ