「人の一日に必要なもの」 長田弘

どうしても思いだせない
確かにわかっていて、はっきりと
感じられていて、思いだせない。
思いだせないのは、どうしても
ことばで言えないためだ。
細部まで覚えている。
感触までよみがえってくる。

ことばで言えなければ、
ないのではない。
それはそこにある。
ちゃんとわかっている。
だが、それが何か
そこがどこか言うことができない。
言うことのできないおおくのもので
できているのが、人の
人生という小さな時間なのだと思う。
思いだすことのできない空白を
埋めているものは、
たとえば、
静かな夏の昼下がり、
日の光のなかに降ってくる
黄金の埃のようにうつくしいもの。
音のない音楽のように、
手につかむことのできないもの。
けれども、あざやかに感覚されるもの。
アンタレスのように、確かなもの。
人の一日に必要なものは、
意義であって、
意味ではない。

「ラーメンたべたい」矢野顕子

ラーメンたべたい
ひとりでたべたい
熱いのたべたい


ラーメンたべたい
うまいのたべたい
今すぐたべたい


チャーシューはいらない
なるともいらない
ぜいたくいわない
いわない けど けど…


ねぎはいれてね
にんにくもいれて
山盛りいれて


男もつらいけど 女もつらいのよ
友達になれたらいいのに
くたびれる毎日 話がしたいから
思いきり大きな字の手紙 読んでね


となりにすわる
恋人達には
目もくれずたべる


わたしはわたしの
ラーメンたべる
責任もってたべる


今度くるときゃ
みんなでくるわ
ばあちゃんもつれてくる
けど けど けど…


今はひとりで
ひとりでたべたい
ラーメンたべたい


男もつらいけど 女もつらいのよ
友達になれたらいいのに


あきらめたくないの 泣きたくなるけれど
わたしのこと どうぞ思いだしてね


ラーメンたべたい
ひとりでたべたい
熱いのたべたい


ラーメンたべたい
うまいのたべたい
今すぐたべたい
たべたい


(ラーメンたべたい ひとりでたべたい 熱いのたべたい)
(ラーメンたべたい ひとりでたべたい 熱いのたべたい)


ラーメンたべたい
ひとりでたべたい


ラーメンたべたい
うまいのたべたい