「骨のうたう」竹内浩三

戦死やあわれ

兵隊の死ぬるや あわれ

遠い他国で ひょんと死ぬるや

だまって だれもいないところで

ひょんと死ぬるや

ふるさとの風や

こいびとの眼や

ひょんと消ゆるや

国のため

大君のため

死んでしまうや

その心や


白い箱にて 故国をながめる

音もなく なんにもなく

帰っては きましたけれど

故国の人のよそよそしさや

自分の事務や女のみだしなみが大切で

骨は骨 骨を愛する人もなし

骨は骨として 勲章をもらい

高く崇められ ほまれは高し

なれど 骨はききたかった

絶大な愛情のひびきをききたかった

がらがらどんどんと事務と常識が流れ

故国は発展にいそがしかった

女は 化粧にいそがしかった


ああ 戦死やあわれ

兵隊の死ぬるや あわれ

こらえきれないさびしさや

国のため

大君のため

死んでしまうや

その心や

「いつ立ち去ってもいい場所」谷川俊太郎

いつ立ち去ってもいい場所
谷川俊太郎



何をしに来たのかもはっきりせずにぼくはここへやって来て

見様見真似でいつの間にか大人になった

掛け値なしに好きでたまらないものももちろんあるけれど

それは風のように一刻もここにとどまっていない


電気スタンドのスイッチを直していて思ったことがある

ぼくをここに結びつけているものはこのスイッチひとつで十分だと

人間の作り出した小さな物が正常に動くこと

それがぼくにとっては何にも変えられない喜びだ


金属や木や硝子で作られたものは明瞭な輪郭をもっているが

人のうちに隠れているあの図りがたい何かにはどんな輪郭もない

だがそれは途方もない力でぼくをここに閉じこめ

同時にどこかへ追放しようとする


もみくちゃにされながらぼくは驚く

人の手で作られた小さな物が泰然としてここにあることに

それがそんなにもはっきりした目的を持っていることに

ここがいつ立ち去ってもいい場所のように思えることがある