「儀式」石垣りん


母親は

白い割烹着の紐をうしろで結び

板敷の台所におりて

流しの前に娘を連れてゆくがいい。


洗い桶に

木の香のする新しいまないたを渡し

鰹でも

鯛でも

鰈でも

よい。


丸ごと一匹の姿をのせ

よく研いだ庖丁をしっかり握りしめて

力を手もとに集め

頭をブスリと落すことから

教えなければならない。


その骨の手応えを

血のぬめりを

成長した女に伝えるのが母の役目だ。

パッケージされた肉の片々(へんぺん)を材料と呼び

料理は愛情です、

などとやさしく諭すまえに。

長い間

私たちがどうやって生きてきたか。

どうやってこれから生きてゆくか。





「なんでもおまんこ」 谷川俊太郎


なんでもおまんこなんだよ

あっちに見えてるうぶ毛の生えた丘だってそうだよ

やれたらやりてえんだよ

おれ空に背がとどくほどでっかくなれねえかな

すっぱだかの巨人だよ

でもそうなったら空とやっちゃうかもしれねえな

空だって色っぽいよお

晴れてたって曇ってたってぞくぞくするぜ

空なんか抱いたらおれすぐいっちゃうよ

どうにかしてくれよ

そこに咲いてるその花とだってやりてえよ

形があれに似てるなんてそんなせこい話じゃねえよ

花ん中へ入っていきたくってしょうがねえよ

あれだけ入れるんじゃねえよお

ちっこくなってからだごとぐりぐり入っていくんだよお

どこ行くと思う?

わかるはずねえだろそんなこと

蜂がうらやましいよお

ああたまんねえ

風が吹いてくるよお

風とはもうやってるも同然だよ

頼みもしないのにさわってくるんだ

そよそよそよそようまいんだよさわりかたが

女なんかめじゃねえよお

ああ毛が立っちゃう

どうしてくれるんだよお

おれのからだ

おれの気持ち

溶けてなくなっちゃいそうだよ

おれ地面掘るよ

土の匂いだよ

水もじゅくじゅく湧いてくるよ

おれに土かけてくれよお

草も葉っぱも虫もいっしょくたによお

でもこれじゃまるで死んだみたいだなあ

笑っちゃうよ

おれ死にてえのかなあ