「シャガールと木の葉」谷川俊太郎
貯金はたいて買ったシャガールのリトの横に
道で拾ったクヌギの葉を並べてみた
値段があるものと
値段をつけられぬもの
ヒトの心と手が生み出したものと
自然が生み出したもの
シャガールは美しい
クヌギの葉も美しい
立ち上がり紅茶をいれる
テーブルに落ちるやわらかな午後の日差し
シャガールを見つめていると
あのひととの日々がよみがえる
クヌギの葉を見つめると
この繊細さを創ったものを思う
一枚の本の葉とシャガール
どちらもかけがえのない大切なもの
流れていたラヴェルのピアノの音がたかまる
今日が永遠とひとつになる
窓のむこうの青空にこころとからだが溶けていく
……この涙はどこからきたのだろう
「アクシデンタル・ツーリスト」友部正人
バスを待っているとき
ぼくには本はいらない
君がいるから
バスを待っているとき
ぼくにはウォークマンはいらない
君がいるから
バスを待っているとき
ぼくには新聞はいらない
君がいるから
バスを待っているとき
ぼくには何もいらない
君がいるから
バスを待っているとき
ぼくはいらいらなんてしない
君がいるから
バスを待っているとき
ぼくはいらいらなんてしない
君がいらいらしはじめるまで
他の人は本を読んだり
ウォークマンを聞いたり
新聞を読んだり
よそ見をしたり
いらいらして何度も時計を見たり
バスはなかなか来ない
たぶん行ったばかりだったんだ
君は最近読んだ本の話をしてくれる
アクシデンタル・ツーリストという題だ
君は毎日たくさんの本を読む
その話をぼくは耳で聞く
ぼくにとって君は
世界中の興味深い物語の作者のようなもの
日暮れのセントラルパーク・ウエストでバスを待っている
そのほんの二十分ぐらいのあいだ
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