「金銭考」谷川俊太郎
1メートルは無色透明
1グラムだって清らかな白
でも1エンとなるとそうはいかない
数字が色めき色気付き
世界中を飛び回る
軽い小さい丸いアルミは何の種?
集まって
貪欲の根無し草をはびこらせる
だが貨幣はもはや
財布の中に住んではいない
見えない電子の網と化して
地球をまるごと捕まえる
ことお金に関してだけは
人類は皆兄弟
麻薬の売り買い武器の売り買い
賭博に贈賄収賄と
ユーロもドルも元もウォンも
喧嘩しながら仲良しだ
点滅する数字信じて
膨らみ続ける欲望信じて
千円札の定価は千円
だが原価はもちろんはるかに安い
千円札も万札も
ときには偉い人の顔に泥を塗るが
ときにはタダで手放して
お金を気持ちに変えたりもする
良かれ悪しかれお金は自分
お金はまるで人間そのもの