「終電車の風景」鈴木志郎康


終電車の風景
鈴木志郎康


千葉行の終電車に乗った

踏み汚れた新聞紙が床一面に散っている

座席に坐ると

隣の勤め帰りの婆さんが足元の汚れ新聞紙を私の足元にけった

新聞紙の山が私の足元に来たので私もけった

前の座席の人も足を動かして新聞紙を押しやった

みんなで汚れ新聞紙の山をけったり押したり

きたないから誰も手で拾わない

それを立ってみている人もいる

車内の床一面汚れた新聞紙だ

こんな眺めはいいなァと思った

これは素直な光景だ

そんなことを思っているうちに

電車は動き出して私は眠ってしまった

亀戸駅に着いた

目を開けた私はあわてて汚れ新聞紙を踏んで降りた