「劣等生」 ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
あたまは「いやだ」と横にふり
心のなかで「いいよ」という
愛するものに「いいよ」といい
教授先生には「いやだ」という
起立して
質問されて
問題がすっかり出そろうと
いきなりげらげら笑いだし
何もかも消す 何もかも
数字も ことばも
年月日も 名前も
文章も 罠も
先生はとびきり渋い顔
優等生は囃(はや)したてるけれど
いろんな色のチョークをとって
ふしあわせの黒板に
しあわせの貌(かたち)をえがく。
「花屋で」ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
一人の男が花屋に入り
花をえらぶ
花屋のおばさんは花を包む
男はポケットに手をつっこんで
金を探す
花の代金を
だがそれと同時に
とつぜん
男は胸に手をあてて
倒れる
倒れると同時に
金は地面をころがる
そして花束は落ちる
男が倒れるのと同時に
金がころがるのと同時に
花屋のおばさんは突っ立ったままだ
金はころがり
花は駄目になり
男は死ぬ
もちろんこれはたいそう悲しいことだ
なんとかしなければいけない
花屋のおばさんは
けれどもどこから手をつけたらいいのかわからない
どこが糸口なのか
さっぱりわからない
しなければいけないことは多すぎるのだ
この死んでゆく男
この駄目になった花
この金
ころがる金
ころがりつづける金。
「みじかい恋の長い唄 」 寺山修司
この世で一番みじかい愛の詩は
「愛」
と一字書くだけです
この世で一番ながい愛の詩は
同じ字を百万回書くことです
書き終らないうちに年老いてしまったとしても
それは詩のせいじゃありません
人生はいつでも
詩より少しみじかいのですから