「花屋で」ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)
一人の男が花屋に入り
花をえらぶ
花屋のおばさんは花を包む
男はポケットに手をつっこんで
金を探す
花の代金を
だがそれと同時に
とつぜん
男は胸に手をあてて
倒れる
倒れると同時に
金は地面をころがる
そして花束は落ちる
男が倒れるのと同時に
金がころがるのと同時に
花屋のおばさんは突っ立ったままだ
金はころがり
花は駄目になり
男は死ぬ
もちろんこれはたいそう悲しいことだ
なんとかしなければいけない
花屋のおばさんは
けれどもどこから手をつけたらいいのかわからない
どこが糸口なのか
さっぱりわからない
しなければいけないことは多すぎるのだ
この死んでゆく男
この駄目になった花
この金
ころがる金
ころがりつづける金。